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春なのにお別れです

  春は別れの季節だから昔から好きではない。1年前やりたいことがあるから東京の学校に行きたいと申し訳なさそうに相談して来た娘に、自分で決めたのなら何も迷うことない、応援すると言って全然反対する気持ちなど全くなかった。愛犬の調子が悪かったため母親は家で待機。初めて2人で東京までの引っ越しとなった。道中いろんな話をして、一人暮らしの部屋に荷物を運んで、お祝いにちょっといいホテルでご飯を死ぬほど食べて、次の日も足りてないものの買い出しや、行ってみたかった渋谷のメガネ屋さんでそれ似合うとかそれはありえないとか言って、二人だけの小さな世界だけど幸せな時間だった。それでもやはり別れの時間が来てしまい、涙でバイバイした。ついこの間までパパ、パパって言ってくれていた頃がもう二度と戻ってこないことに気がついて、東京行きを反対しなかった自分を初めて後悔した。しばらくはスタッフが心配するほど空っぽになってしまっていた。東京から帰ってきて、医院の改築やプレゼンを作ったりして気が紛れだし、ふと気がついた。もう戻らないんじゃなくて、もうすでに十分いろんなことを子供達からもらっていたと。

長年こころ歯科クリニックがお世話になっていたk氏が昇進ということで当院の担当から代わることとなり、昇進は喜ばしいことなのだけれど、やっぱり春は別れなければならないのかとガッカリしていた。私の取り止めもない話にも後に約束もあるはずなのに、そんなそぶりを少しも見せず、うんうんと頷いてくれて、よくその時間に新しいアイデアが浮かんだりして、k氏は気がついていないかもだが、きっとそれは彼の才能だと思う。いつも当たり前のように感じていた存在がふといなくなるとやはり寂しいものである。k氏が久しぶりに当院を訪れどうしたのって聞くと、金の刺繍でkokoro dental clinicと入った白衣をプレゼントしてくれた。新しい気持ちになれて、別れの春もいいものだと初めて思えた。これからもこれを着て頑張るよ。

 

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