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2018年日本国際歯科学会にて

 大学を卒業する時教授に、「アメリカの歯科大学では大学でのプログラムがしっかりしているから学生のうちにある程度の知識と技術が身につくけど、日本の歯科大学では残念ながら、テクニックや知識を得るには卒業後にお金を出さなければ手に入らない。」と言われました。だから卒後働いて得た給料のほとんどを研修代や教科書に費やしました。同級生よりもずいぶん遅れて開業した33歳の時、絶対大丈夫、患者さんを救えると思っていました。しかしその自信は開業して割とすぐにすべて失いました。今まで見たことのない、経験したことのない歯科の悩みを抱えた多くの患者さんに触れる中で、見事に砕かれました。あれから約10年が経ち、日々治療をしていても、決して元には戻せない、一旦悪くなってしまった歯や歯肉を、セラミックやインプラントなど最新の治療や最新の材料を使っても、決してもと通りにはできないことに当たり前なのですが、気が付いてしまいました。マイクロスコープを使って丁寧に治療したとしても、厳密な意味では虫歯菌を100%完璧には除去できないし、歯周病菌を100%完璧には除去できないことも。医療ができることはただ人間が持っている治癒力を助けること、体と細菌が戦っていれば、体が勝ちやすい環境を作ることや、菌の数をなるべく少なくする手助けをしているだけに過ぎないと。だから勉強すればするほど、開業して自信満々だったあの頃よりも、今は歯科医師として謙虚になるというか、その事実の前では私の技術などたかが知れていると思っています。だから歯科医療とはきっと一生をかけて勉強し続けていく仕事で、それはきっと幸せなことなんだと思います。患者さんには事実を伝えることだけはできます。つまり治療であればその方法を選択した場合のいいところと起こりうる悪い可能性など。それでも患者さんが治療を選択した場合のみ、その中で私は最善を尽くすだけしかできない。混沌とした歯科治療の情報の中で、出ては消えていく多くのテクニックや材料、信じてしまった間違った治療。でももし勉強しつづけていなければ、それにも気がつかなかった。昔みたいに盲信せず、少し冷静に時間に任せたりして、結果やエビデンスを受け入れていければ。 

こころ歯科クリニック 院長 畑 伸二郎

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